2010年HNS条約とトルコ:危険貨物事故における責任・保険・補償

2010年HNS条約は2027年11月29日に発効し、海上輸送される危険物質及び有害物質について新たな国際的責任・補償制度を導入します。トルコはすでに締約国です。本稿では、この制度がトルコ関連の海上貿易に関わる船舶所有者、保険者、貨物受取人、輸入者、ターミナル、請求者にとって何を意味するかを検討します。

執筆
Berat Murat Terzioğlu, 法務・国際コーディネーション ディレクター
法務監修
Yavuz Selim Terzioğlu, 創業パートナー
49 分で読めます
2010年HNS条約とトルコ:危険貨物事故における責任・保険・補償

国際海事法は長年にわたり、タンカーからの油濁、燃料油による汚染、旅客の請求、危険な難破物について、整備された責任制度を備えてきました。

一方で、危険物質及び有害物質の貨物は、目立った空白となっていました。

化学品、液化ガスその他の危険貨物が関わる事故は、通常の流出事故をはるかに超える結果をもたらし得ます。有毒物質による汚染、火災、爆発、死亡や身体傷害、財産の滅失、漁業や観光の中断、緊急対応費用、長期にわたる環境回復などが生じる可能性があります。

2010年の危険物質及び有害物質の海上輸送に関連する損害についての責任並びに損害賠償及び補償に関する国際条約(以下「2010年HNS条約」)は、こうした損失を専用の国際補償制度の中に位置づけるために設計されました。

その制度が、いよいよ理論から実務へと移ろうとしています。

2026年5月29日、発効のための最後の条約上の要件が充足されました。IMOは、条約が2027年11月29日に発効することを確認しています。トルコは締約国の一つであり、2018年4月23日にIMOへ批准書を寄託しました。

トルコの海上貿易にとって、その意味は船舶所有者だけにとどまりません。

条約は、財政的負担を海運業界と危険物質及び有害物質の貨物を受け取る産業との間で分担させます。強制保険の義務を設け、請求者に保険者への直接請求の途を開き、貨物側の利害関係者の拠出によって賄われる国際的なHNS基金を設立します。

そのため、条約は船舶所有者やP&Iクラブだけでなく、化学企業、エネルギー企業、輸入者、ターミナル運営者、トルコでHNS貨物を受け取る事業体にも関わります。また、トルコにおける海事・海運紛争の全体像に新たな層を加えるものでもあります。

1. トルコはすでに締約国であり、制度自体は2027年に始まる

トルコの参加は、条約の発効が迫ったために最近下された政策判断ではありません。

議会の承認は、2017年4月3日付の官報で公布された法律第6949号によって与えられ、トルコは2018年4月にIMO事務局長へ批准書を寄託しました。トルコの議会資料は、トルコが石油とHNS貨物の双方について輸入国の立場にあることを明確に指摘し、トルコ水域を通航する外国船舶や危険物質の量がもたらすリスクに言及していました。

2026年に変わったのは、国際的な状況です。

条約は、少なくとも12か国の締結、そのうち4か国がそれぞれ総トン数200万以上の船腹を有すること、さらにそれらの国で受け取られた拠出対象貨物が少なくとも4,000万トンに達することを要件としていました。最後の要件は2026年5月、2025年の報告年について報告された拠出対象貨物が基準値を超えたことで満たされ、発効までの18か月の期間が始まりました。

その後、2026年6月30日にフィンランドが13番目の締約国となりました。

実務上の帰結は明確です。企業はもはや、HNS制度がいつか機能するのかを問う必要はありません。

確定した発効日に向けて準備する必要があります。

2. 「HNS」は化学物質による汚染よりはるかに広い概念である

条約は、「危険貨物」について独自の商業的定義を設けていません。

HNSは、既存のIMO条約及びコードで規制されている物質を参照して特定されます。その区分には、油類、有害・危険な液体物質、液化ガス、引火点が60℃以下の液体、容器包装で運送される危険物、化学的危険性を有する一部の固体ばら積み物質が含まれます。IMOは、条約が化学品、酸、肥料、アルコール、LNG、LPGを含む2,000以上の物質を対象とし得ると説明しています。

この広さが重要なのは、条約が単なる汚染条約ではないからです。

対象となる損害には、次のものが含まれます。

  • 死亡及び身体傷害
  • 船舶外の財産に対する損害
  • 環境汚染により生じた経済的損失
  • 合理的な防止措置及びその措置により生じた損失
  • 合理的な環境回復措置

地理的な適用範囲も損失の種類によって異なります。締約国の領土又は領海で生じた損害は対象となり、環境汚染はその排他的経済水域又はこれに相当する海域にまで及び得ます。また、いずれの国の領海外で生じた汚染以外の一定の損害も、HNSが締約国に登録された船舶で運送されていた場合には対象となり得ます。防止措置は、どこで講じられたかを問わず制度の対象となり得ます。

この区別は、汚染、爆発による損害、防止措置の費用が異なる場所で生じ得る大規模事故において重要になります。

3. 条約は主たる責任を登録船舶所有者に集中させる

制度の第一段階は、請求者の視点から意図的に簡潔に設計されています。

第7条により、船舶所有者は、HNSの海上運送に関連して生じた対象損害について厳格責任を負います。請求者は、まず所有者や乗組員の過失ある航行、管理上の欠陥その他の伝統的な海事上の過失を立証する必要はありません。

もっとも、条約は限定的な免責事由を認めています。

所有者は、例外的な戦争や自然現象、第三者の故意による行為、航行援助施設に関する一定の不備、荷送人その他の者が貨物の危険な性質を開示しなかった一定の場合など、特定の状況では責任を免れ得ます。最後の免責事由は、貨物情報の欠陥が損害を引き起こし、又は所有者が強制的なHNS保険を取得することを妨げ、かつ所有者もその使用人や代理人も貨物の危険な性質を知らず、合理的に知るべきでもなかった場合に、特に重要となります。

これは、貨物側の利害関係者にとって重要な書類上の問題を生じさせます。

物質の正確な分類とその性質の正確な伝達は、危険物コンプライアンスの機能にとどまりません。大規模事故では、責任分析の一部となり得ます。

条約はまた、乗組員、水先人、傭船者、管理者、運航者、救助者、防止措置を講じた者など、一連の海事関係者から請求を遠ざけています。ただし、故意又は無謀な個人的行為という高い法定の基準が立証された場合はこの限りではありません。

その目的は、主たる補償請求を船舶所有者と、その責任を支える金銭上の保証の仕組みに集中させることにあります。

4. 責任は制限されるが、包装されたHNSについては限度額が大幅に高い

船舶所有者は、通常、条約上の責任制限基金を設定することにより責任を制限する権利を有します。

その額は、船舶のトン数と、事故がばら積みのHNSと包装されたHNSのいずれに関わるかによって決まります。

  • ばら積みのHNS: 総トン数2,000トン以下の船舶で1,000万SDRから始まり、所有者の最大責任額は1億SDRです。
  • 包装されたHNS、ばら積みと包装のHNSの混在、又は発生源を区別できない場合: 総トン数2,000トン以下の船舶で1,150万SDRから始まり、所有者の最大責任額は1億1,500万SDRです。

開始額と最大額の間では、第9条に定めるトン数算式に従って金額が増加します。

この区別は、2010年議定書によって意図的に導入されました。

包装された危険物は特定がより難しい場合があり、事故後に特に複雑な対応状況を生じさせ得ます。そのため、2010年の制度は、包装されたHNSが関係する場合の第一段階の限度額を引き上げました。

所有者の責任制限の権利は絶対的なものではありません。請求者が、損害が所有者自身の作為又は不作為によるもので、それが損害を生じさせる意図をもって、又は損害が生じるおそれがあることを認識しながら無謀に行われたことを立証した場合には、その権利は失われます。

これは意図的に厳格な基準です。

通常の航行上の過失や乗組員の過失は、それだけでは責任制限を破るには足りません。

5. 責任制限基金は船舶の仮差押え戦略にも影響し得る

HNS条約は、海事債権の保全と直接的な手続上の関係を持っています。

責任制限の権利を有する所有者が第9条の基金を設定すると、第10条は、条約上の請求について所有者の他の財産に対する個別の執行から所有者を保護します。同条が定める状況では、裁判所は、同じHNS請求について仮差押えされた船舶その他の所有者の財産を、対応する担保とともに解放しなければなりません。ただし、請求者が基金を管理する裁判所にアクセスでき、かつ基金がその請求について実際に利用可能であることが条件です。

この点は、船舶の仮差押えが重大な海事債権に対する最初の有効な対応となることが多いトルコでは、特に重要です。

HNS制度の発効後も、請求者は担保を確保するために迅速に行動する必要があるかもしれません。しかし、訴訟戦略は仮差押えの取得で終わるわけにはいきません。

弁護士は、HNS責任制限基金が設定されているか、どこで設定されているか、トルコの請求者が実際にそれにアクセスできるか、第10条が仮差押えされた財産の解放を求めるかについても検討する必要があります。

したがって、HNS請求は、実体的な責任、責任制限、海事上の保全を直接結びつけるものです。

6. 強制保険は請求者の立場を大きく改善する

条約は、船舶所有者の財務状況のみに依拠するものではありません。

第12条は、実際にHNSを運送する船舶の登録所有者に対し、条約上の責任を賄うに足る保険その他の金銭上の保証を維持することを義務づけています。国が発行し又は認証したHNS保険証明書が、その遵守を証明します。

特に重要なのが、寄港国としての効果です。

締約国は、対象となる船舶について、登録地にかかわらず、自国の領土内の港に出入りする場合や、自国の領海内の沖合施設に到着し又はそこから離れる場合に、必要な保険又は保証が存在することを確保しなければなりません。したがって、非締約国の旗を掲げていることは、その船舶が締約国の港に寄港する際に証明書の要件を自動的に免除するものではありません。

トルコにとって、これは制度がトルコ籍船隊をはるかに超えて関わることを意味します。

条約が機能し始めれば、トルコの港に寄港する外国のHNS運送船も、寄港国の保険の枠組みの中に入ります。

IMOは、約6万5,000隻の船舶がHNS保険証明書を必要とすると見積もっています。

そのため、船舶所有者とP&I保険者にとって、証明書への備えは保険の問題であると同時に運航上の問題でもあります。

7. 請求者は保険者に対する直接請求権を有する

請求の観点から見て、第12条でおそらく最も重要な特徴は直接請求権です。

対象となる補償請求権を有する者は、保険者その他所有者の金銭上の保証を提供する者に対し、直接請求することができます。保険者は、第12条の特則に従い、条約上の所有者の抗弁と適用される責任限度額を援用できますが、被保険者である所有者に対して本来主張し得る私法上の契約上の抗弁のすべてを主張することはできません。

これは請求者のリスクを大きく変えます。

直接請求制度がなければ、責任を認める判断を得ても、船舶所有者が支払不能である場合、資本が不十分である場合、執行が困難な法域で設立されている場合には、回収の問題に転じかねません。

条約は、被害者を強制的な金銭上の保証に直接結びつけます。

P&I保険者その他の保証提供者にとって、同じ規定は、HNSの補償が単なる組合員との填補関係ではないことを意味します。

それは法定の請求構造の一部を成すのです。

8. HNS基金は第二段階として、事故1件につき最大2億5,000万SDRを提供する

船舶所有者の責任は、最初の層にすぎません。

条約は国際的なHNS基金を設立し、所有者の第一段階の責任が尽きた場合、又は条約が想定する状況において他の方法では補償の全額を得られない場合に、追加の補償を行います。

二つの段階を合わせて利用できる上限額は、所有者及び保険者の支払額を含め、事故1件につき2億5,000万SDRです。

この仕組みは、海上リスクの意図的な分担を反映しています。

海運業界は、所有者の強制保険を通じて第一段階を賄います。

貨物側の利害関係者は、HNS基金を通じて第二段階を支えます。

基金は、国際油濁補償基金(IOPC基金)をおおむね範とした仕組みで運営される見込みです。準備はすでに進んでおり、HNS基金の本部はロンドンのIOPC基金と同じ場所に置かれ、同一の事務局長の下で運営されます。また、2027年の始動に向けて、IOPC基金の既存の組織体制が活用されています。

これはトルコにとって、沿岸国・海運国としてだけでなく、議会が議定書を承認する際に、HNS貨物の輸入国としてのトルコの大きな役割を明確に認めたという点でも重要です。

9. 基金に拠出するのは荷送人ではなく貨物受取人である可能性がある

第二段階は、取引の貨物側に位置する規制上の責任を生じさせます。

条約は、拠出対象となるHNS貨物の受取人という概念を用いています。標準的な定義では、通常、拠出対象貨物を物理的に受け取る者がこれに当たりますが、代理関係や条約が認める国内法上の代替的な取扱いが考慮されます。IMOとIOPC基金は、受取人の定義が貨物の報告と最終的な拠出責任の双方を決定するため、実施上の中心的な論点であると強調しています。

したがって、供給契約で用いられる商業上の呼称が、必ずしも決定的とは限りません。

ある事業体は、自らを輸入者、買主、ターミナル運営者、保管業者又は荷受人と称するかもしれません。HNSの観点からは、受取りの流れと条約の国内実施をより慎重に検討する必要があります。

2010年の制度は、対象となる貨物と拠出対象貨物との間に重要な区別も設けています。

包装されたHNSは、補償の観点では引き続き対象となります。包装された危険物が関わる事故は条約を発動させ得るうえ、前述のとおり、所有者の責任限度額の上限も高くなります。

しかし、2010年議定書により、包装されたHNSはHNS基金に財政的に拠出する貨物の基礎から除外されました。基金への拠出は、主としてばら積みで受け取られた対象HNSに基づいています。

これは、制度の中で最も誤解されやすい点の一つです。

ある貨物がHNSの補償請求を生じさせ得る一方で、その貨物自体はHNS基金の拠出金の算定対象とならないことがあるのです。

10. 貨物の報告はトルコの受取人にとってコンプライアンス上の課題となる

HNS基金は、信頼できる貨物データなしには機能しません。

条約は締約国に対し、拠出対象貨物を報告することを義務づけており、これには拠出義務を負う可能性のある者を特定するために必要な情報が含まれます。拠出金は、その後、該当する前年に締約国で受け取られた貨物に基づいて算定されます。

基金の構造は、一般勘定と、油、LNG、LPGそれぞれの別勘定を想定しており、性質の大きく異なるHNS分野間の内部補助を抑えることも目的の一つとしています。拠出義務は、受け取った貨物の区分と数量によって決まります。

トルコの企業にとって、この問題は最初の大規模事故が起きるよりずっと前に重要となる可能性が高いでしょう。

トルコの港やターミナルを通じてばら積みの化学品、液化ガス、油類その他の対象HNSを受け取る企業は、次の点を特定できるようにしておくべきです。

  • どの物質を受け取ったか
  • その物質が条約上どのように分類されるか
  • 受け取った数量
  • 該当する受取人となる事業体
  • 最終的な受取港又はターミナル
  • その貨物が基金の観点で拠出対象貨物に当たるか

IMOとIOPC基金は、各国と業界が分類と報告を行えるよう、専用の実施資料とHNS Finderを整備しています。

トルコにおける具体的な行政上の報告手続については、2027年11月に向けて実施が進むにつれ、その時点で有効な国内措置に照らして確認する必要があります。条約が定めるのは国際的な枠組みにとどまります。企業は、商業上の積荷目録が将来の国内報告要件のすべてを自動的に満たすと考えるべきではなく、そのためHNSの報告は規律ある規制・コンプライアンスの体制の中に位置づけるべきです。

11. HNS制度は既存の油濁制度に取って代わるものではない

海難事故において特に難しいのが、どの国際的責任制度が適用されるかを見極めることです。

HNS条約は空白を埋めるために設計されたものであり、確立された条約に取って代わるものではありません。

貨物として運送される持続性油について民事責任条約及び基金条約の制度がすでに適用される汚染損害は、重複を避けるためHNS制度の対象から除外されています。燃料油による汚染も、該当する場合には独自の国際的枠組みに服します。関係する除外区分に属する放射性物質も、HNS制度の対象外です。

油そのものが一定の目的ではHNSに該当し得るため、この区別は微妙になることがあります。

IMOは、CLC/基金制度の対象となるタンカーからの油濁損害は除外されるものの、HNS条約は同じ危険貨物から生じる身体傷害や火災・爆発による損害など、他の種類の損失を対象とし得ることを明記しています。

したがって、ケミカルタンカーや混載された危険貨物が関わる事故を、安易に分類すべきではありません。

最初の法的作業は、物質、損害の種類、適用される国際制度を特定することです。

12. 期間制限は厳格であり、権利消滅期間として扱うべきである

第37条は、重要な請求期間を定めています。

条約に基づく船舶所有者に対する権利は、請求者が損害と所有者の身元の双方を知り、又は合理的に知るべきであった日から3年以内に訴えが提起されなければ消滅します。

HNS基金に対する請求にも、これに対応する3年の期間が適用されます。

いずれの場合も、事故の日から10年の絶対的な期間が適用され、事故が一連の出来事から成る場合については特別の取扱いがあります。

この点が重要なのは、その文言が通常の手続上の期間よりも強いためです。

条約は、補償を受ける権利が消滅すると規定しています。

したがって、長期にわたって顕在化する汚染や身体傷害の請求を、当事者が所有者、P&Iクラブ又は基金と非公式に交渉している間に放置すべきではありません。

証拠の保全と期間の分析は、事故の時点から始める必要があります。

13. 管轄は契約ではなく、事故と条約に従う

第38条は、所有者及び金銭上の保証提供者に対する請求について、独自の管轄の枠組みを定めています。

HNS損害が締約国の領土、領海又は関係する海域で生じた場合、請求は原則として影響を受けた締約国の裁判所に提起されます。責任制限基金が設定されると、その基金が設定された国の裁判所が、その分配について専属的な管轄を有します。

これは、関連する商業書類に外国裁判所の管轄条項や仲裁条項が含まれ得る分野において重要な意味を持ちます。

HNSの被害者による請求は、単なる契約上の貨物紛争ではありません。

条約は、独自の責任主体、強制保険、直接請求権、管轄の規則を定めています。

トルコの批准関係資料には、国境を越えた判決の執行において意味を持ち得る点がもう一つあります。トルコは第40条について宣言を行い、判決の承認に関する条約の規定を、トルコが承認し、かつ外交関係を有する国との関係でのみ適用するとしています。

これは限られた論点ですが、真に国際的な事故においては、トルコにおける外国判決・仲裁判断の承認と執行に関する一般的な規則とあわせて重要となり得ます。

したがって、法廷地の分析は、傭船契約、船荷証券又は基礎となる売買契約のみから導くのではなく、条約そのものに基づいて行うべきです。

14. 身体傷害の請求は法定の優先権を有する

条約は、責任制限基金を最初からすべての請求区分に按分して配分するとは限りません。

第11条は、条約上の3分の2の仕組みに従うことを条件として、死亡及び身体傷害の請求に他の請求に対する法定の優先権を与えています。

これは、壊滅的な事故の後の回収見込みに大きく影響し得ます。

一つの事故から、負傷した乗組員や第三者、沿岸の事業者、財産所有者、公的機関、環境対応機関による請求が生じ得ます。

したがって、公表される責任限度額だけでは、財産損害や経済的損失を請求する個々の請求者が最終的にどの程度回収できるかはわかりません。

重要なのは、請求全体の構成です。

15. 条約は商業当事者間の求償を排除しない

集中された厳格責任は、被害者の請求を簡明にします。

しかし、運送の連鎖に関わる当事者の間で、あらゆる経済的帰結を最終的に誰が負担するかを必ずしも決めるものではありません。

第7条は、荷送人や物質の受取人を含む第三者に対する所有者の求償権を明示的に留保しています。

これにより、傭船契約上の義務、危険物の申告、貨物情報、補償の約定、契約上のリスク配分の重要性が維持されます。

たとえば、事故後に所有者が第三者に対して厳格責任を負ったものの、その損失が貨物について提供された不正確な情報と実質的に関係していたとします。

条約は、被害者に対する外部的な請求を決めるかもしれません。

しかし、内部的な求償の分析を必ずしも終わらせるものではなく、その分析は多くの場合、支払を行った保険者による保険代位・求償・回収の請求と並行して進みます。

したがって、所有者、傭船者、荷送人及び貨物側の利害関係者は、HNSに関する契約条項を、新たな法定制度によって置き換えられたものとみなすのではなく、それと並行して見直すべきです。

16. トルコの企業には準備期間がある。2027年まで待つ理由はない

発効までは1年以上あります。

企業によっては、差し迫った緊急性はないように見えるかもしれません。

しかし実務上、必要な準備は構造的なものです。

船舶所有者は、実際に対象HNSを運送する船舶を特定し、P&Iの手配を見直し、第12条の証明書についてトルコ及び旗国の認証手続を追う必要があります。

保険者とP&Iクラブは、請求者が金銭上の保証提供者に法的にアクセスできる直接請求制度に備える必要があります。

貨物受取人と輸入者は、受け入れるばら積みHNSの数量を把握し、報告と拠出の観点でどの事業体が受取人として扱われ得るかを判断する必要があります。

ターミナルと保管事業者は、契約上の役割によって自らが受取人の分析に含まれる可能性がないか、またシステムが報告に必要なデータを保持しているかを確認する必要があります。

荷送人と傭船者は、貨物の記載手続、申告、補償の仕組みを見直す必要があります。貨物の危険な性質に関する不備は、第7条の下で直接意味を持ち得るからです。

さらに、損害処理の担当者と海事訴訟の実務家は、新たな責任制限、保険、基金、管轄、期間制限の構造を、トルコにおける既存の船舶仮差押えや海難事故の実務と統合する必要があります。

これは、2027年11月に保険条項を一つ改めるだけで実施できる制度ではありません。

結論

2010年HNS条約の意義は、海洋汚染に関する新たな請求類型を一つ設けることにあるのではありません。

危険貨物事故の後の補償の仕組みそのものを変えるところにあります。

2027年11月29日以降、トルコに関連する対象HNS請求は、二段階の国際的な制度の中に組み込まれます。登録所有者は、強制的な金銭上の保証に裏付けられた厳格責任を負います。被害者は保険者に直接請求できるようになります。所有者の責任は、通常、貨物の種類とトン数に応じた算式に従って制限される一方、HNS基金によって利用可能な補償総額は事故1件につき2億5,000万SDRまで引き上げられ得ます。

同時に、制度は貨物側にも及びます。

拠出対象となるばら積みHNSの受取人は国際基金の財源構造の一部となり、報告制度は、貨物、数量、責任ある受取人の正確な特定に依存します。包装されたHNSは、2010年に到達した妥協の精緻さを示しています。補償の対象となるHNS事故を十分に生じさせ得るうえ、船舶所有者の責任上限を引き上げる一方で、基金の拠出対象貨物の基礎からはもはや外れているのです。

トルコにとって、これは特に重要です。議会自身の批准関係資料は、主要なHNS輸入国としての同国の立場と、トルコ水域を通じて運送される危険貨物がもたらすリスクを指摘していました。

したがって、条約は船舶所有者の責任に関する進展にとどまりません。

保険、貨物、港湾、請求、そして産業輸入のコンプライアンスに関わる制度でもあるのです。

発効日はすでに確定しています。

それまでの法的作業は、各企業がこの制度のどちら側に位置するのかを見極めることです。

Terziolu & Partners によるサポート

Terziolu & Partners は、船舶所有者、傭船者、貨物側の利害関係者、保険者、P&I関係者、輸入者、ターミナル及び国際企業に対し、トルコに関連する海事請求や国境を越えた海運案件について助言しています。

当事務所の業務には、HNS条約の適用可能性と物質の分類、船舶所有者の責任と責任制限、強制保険と直接請求の問題、危険貨物の書類と契約上のリスク配分、貨物受取人と拠出の分析、事故対応、責任制限基金、船舶の仮差押えと解放、身体傷害・財産・環境・経済的損失に関する請求、期間制限と管轄の分析、保険と代位の問題、さらに国境を越えた法務調整を通じた、船舶所有者、保険者、専門家及び他の法域の弁護士とのトルコでの手続の調整が含まれ得ます。

大規模なHNS事故では、責任、保険、保全、環境対応、貨物書類を、別々の法務作業としてではなく、当初から一つの請求戦略として扱うべきです。この制度が貴社の船隊、貨物の流れ、請求上の立場にどのように適用されるかについてご相談の際は、当事務所までお問い合わせください。

主要な参考資料

国際海事機関

IMO「危険物質及び有害物質の海上輸送に関連する損害についての責任並びに損害賠償及び補償に関する国際条約」。条約の適用範囲、二段階の補償制度、船舶所有者の責任限度額、2027年11月29日の発効を確認するIMOの公式条約ページ。

IMO「IMO treaty on hazardous and noxious cargo to enter into force in 2027」(2026年6月)。2026年5月29日の発効要件の充足、2027年11月29日の発効日、強制保険、基金による補償、拠出対象貨物の構造を確認するもの。

条約本文

2010年HNS条約統合テキスト、特に第3条、第7条から第12条、第37条から第40条。条約本文は、地理的適用範囲、船舶所有者の厳格責任、責任の集中、責任制限、強制保険、直接請求権、期間制限及び管轄を規律しています。

トルコ

2010年HNS議定書の承認に関する法律第6949号(2017年4月3日付官報)及びトルコ大国民議会の立法資料(TBMM、S. Sayısı 555)。議会資料は、HNS輸入国としてのトルコのリスクと、国際補償制度への参加の理由を示しています。

条約第40条に関するトルコの宣言(TBMMの批准関係資料に収録)。

IMO及びIOPC基金「Canada and Turkey ratify the 2010 HNS Protocol」(2018年4月23日)。

HNS基金と実施

IMO及びIOPC基金、HNS条約実施資料。拠出対象貨物、貨物受取人、報告、保険及びHNS基金の準備に関する公式の組織的ガイダンス。

HNS条約の状況・実施ポータル(hnsconvention.org)。IMO及びIOPC基金の実施プロセスに関連して運営され、条約が2027年11月29日に発効することを確認するとともに、2026年6月30日のフィンランドによる批准を含むその後の批准を記録しています。

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